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効果的なプロダクト開発:複合的手法による優先順位の決定と実践

プロダクト開発において、限られたリソースを最適に活用するためには、明確な優先順位の設定が不可欠です。しかし、多くの開発者やプロジェクトマネージャーが直面するのは、「どの機能を先に開発すべきか」という常に変わる課題です。この問題に効果的に対処するため、私たちは複数の優先順位付け手法を組み合わせた新しいアプローチを提案します。

過去10年のプロダクト開発経験と数多くのプロジェクトを成功に導いた実績に基づき、この記事ではCoD法、WSJF法、そしてICE法を融合させた方法を紹介します。この統合手法により、プロジェクトの価値、緊急性、そしてリスクを総合的に評価し、より科学的かつ効果的な優先順位を決定できます。

この記事を読むことで、プロダクト開発プロジェクトの戦略的な意思決定を強化し、競争の激しい市場での成功率を高めるための実践的な知識とツールを得ることができます。最後に、私たちのアプローチを実際に適用した事例を通じて、具体的な成果とその達成過程を解説します。プロダクトを市場に出すタイミングが競争優位を左右する今、正しい優先順位付けが成功の鍵となります。

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はじめに:なぜプロダクト開発で優先順位付けが必要か?

優先順位付けの必要性とその影響

プロダクト開発では、無数のアイデアと限られたリソースの中から最良の選択をする必要があります。適切な優先順位付けがなければ、重要な機能の開発が遅れたり、不必要な機能に時間を費やすリスクが生じます。このような課題を回避するためには、効果的な優先順位付けが必須です。

定量的アプローチがもたらすメリット

感情や直感に頼るのではなく、定量的な評価を用いることで、より客観的で合理的な意思決定が可能になります。このアプローチにより、各施策の潜在的な影響と必要な投資を明確に評価できるため、最終的なプロダクトの質と市場での成功率を高めることができます。

優先順位付けの主要手法とその組み合わせ方法

ここでは、優先順位付けに使われるいくつかの技法を紹介し、最終的に、価値、コスト、信頼度の要素をかけ合わせてスコアリングした結果を優先順位付けに活用する流れを見ていきます。

CoD法

CoD法(Cost of Delay)は、プロジェクトの遅延によって発生する機会損失のコストを評価する手法です。このアプローチでは、プロジェクトが時間通りに完了しなかった場合の損失を数値化し、プロジェクトの優先度を決定します。プロダクト開発においては、市場に早く出ることが競争優位に直結するため、遅延コストの高いプロジェクトほど高い優先度を持つと評価されます。

WSJF法

WSJF法(Weighted Shortest Job First)は、タスクの労力に対する価値の比を計算することで優先順位を決定します。具体的には、タスクのビジネス価値、リスク低減、および機会損失といった要素を総合的に評価し、それをタスクの所要時間で割ることで重み付けします。この方法は、限られたリソースで最大の効果を得るための効率的な優先順位付けを可能にします。

ICE法(Impact: 影響度(価値)、Confidence: 信頼度、Ease: 容易性)

ICE法における信頼度は、特に不確実性が高いプロジェクトにおいて重要です。この要素は、予想される成果の確信度を数値化し、よりリスクを考慮した意思決定を支援します。信頼度を加えることで、計画の現実的な成功可能性を評価し、過度な期待に基づくリスクを回避できます。

統合的優先順位付けの具体的な実演とステップ

具体的な施策とその数値化

具体的なプロダクト開発施策を5個挙げ、それぞれに対してCoD法、WSJF法、ICE法を適用するプロセスを説明します。

  • モバイルアプリの導入(施策MobileApp)
  • プレミアムプランの新設(施策PremiumPlan)
  • クラウド統合機能の開発(施策CloudIntegration)
  • セキュリティアップデートの実施(施策SecurityUpdate)
  • 新市場拡大戦略(施策MarketExpansion)

まず、各施策に対して以下の要素を評価し、それぞれの手法でどのように数値化されるかを示します。

CoD法を用いた具体的な数値算出と評価

CoDにおける遅延コストですが、ここではユーザー価値、ビジネス価値、外的要因による緊急度の3要素で求められると定義しておきます。

  1. ビジネス価値:施策が直接的にもたらす売上、利益に寄与する影響を評価します。
  2. ユーザー価値:ユーザーのペインを解決したり、満足度やエンゲージメントをどれだけ向上させるかを評価します。
  3. 緊急度:市場への導入が遅れた際の機会損失や変更不可の期限のあるリスクを評価します。

この手法では、ビジネス価値、ユーザー価値、および緊急度を独立した要素として評価し、それらを乗算してプロジェクトの優先順位を決定します。

ここでは、具体的な数値を用いて施策ごとの評価を行います。

CoD法の評価を行う際に、各要素内での相対評価と、評価の計算方法を考慮するアプローチについて説明します。

相対評価の適用

相対評価は、各施策のビジネス価値、ユーザー価値、緊急度を互いに比較することで、明確な優先順位を設定するのに有効です。これは、具体的な数値データが不足している場合や、異なるプロジェクト間での一貫性を保ちたい場合に特に役立ちます。

例として、施策A, B, C, D, Eがあると仮定します。以下のように各施策に対して10点満点として相対的なスコアを付けます。相対評価のため同じポイントは付けません。

施策ビジネス価値ユーザー価値緊急度計算結果優先度
モバイルアプリの導入1231 × 2 × 365
プレミアムプランの新設3463 × 4 × 6724
クラウド統合機能の開発89108 × 9 × 107201
セキュリティアップデートの実施5675 × 6 × 72103
新市場拡大戦略7857 × 8 × 52802

※加算ではなく乗算を用いる理由は、各要素の影響を相乗的に評価できるためです。加算の場合、ある要素が非常に低いスコアでも他の要素で補うことが可能ですが、乗算を用いることで、すべての要素がバランス良く高い必要があることを強調できます。

この方法により、「施策: クラウド統合機能の開発」が最も優先すべきという結果が得られます。これは、すべての要素において高い評価を受けたためで、このアプローチがその重要性を強調しています。

CoD法のデメリット

CoD法(Cost of Delay)は、プロジェクト遅延による機会損失を評価する点で非常に有効ですが、直接的なコスト(施策の実施にかかる投資やリソース)を考慮に入れていません。このため、高いビジネスやユーザー価値を持つ施策でも、それを実現するためのコストが非常に高い場合、その実現可能性や経済的合理性を適切に評価することが難しくなります。それを解決するのが、WSJF法です。

WSJF法の計算手順

WSJF法(Weighted Shortest Job First)は、プロジェクトの相対的な価値を労力に対して重み付けすることで優先順位を決定します。この手法は特にアジャイル開発で効果を発揮し、最も価値が高く、かつ労力が少ないタスクから優先的に取り組むべきことを示します。先にCoD法で算出したスコアを活用しつつ、WSJF法を適用してみます。

WSJF法に基づく効果的な優先順位付け

WSJFは「ビジネス価値 + ユーザー価値 + 緊急度」を「所要時間(労力)」で割ることによって算出します。

ここでの所要時間は、1人あたり1日かかる人日単位とします。

見積もりに時間掛けてられないので、ここは超概算見積もりになります。半月以内、1ヶ月以内、2ヶ月以内など。

具体的な計算は以下の通りです:

施策CoDスコア所要時間(MD)計算結果優先度
モバイルアプリの導入1 × 2 × 310(1 × 2 × 3) / 100.65
プレミアムプランの新設3 × 4 × 65(3 × 4 × 6 ) / 514.41
クラウド統合機能の開発8 × 9 × 1060(8 × 9 × 10) / 60122
セキュリティアップデートの実施5 × 6 × 720(5 × 6 × 7) / 2010.53
新市場拡大戦略7 × 8 × 530(7 × 8 × 5) 309.34

結果、「施策: プレミアムプランの新設」が最も高いスコアを持ち、優先すべき施策であることが明確となりました。

WSJF法のデメリット

WSJF法は、ビジネス価値、ユーザー価値、緊急度を労力で割ることによって施策の効率的な優先順位を設定しますが、この手法では施策の成功確率や実行の確実性(信頼度)を直接考慮していません。したがって、高いポテンシャルを持つ施策でも、その成功確率が不確かな場合、期待した成果が得られないリスクがあります。

ここでICE法における信頼度(Confidence)の要素が出てきます。

ICE法のConfidence(信頼度)の役割

ICE法では、「Impact(影響度)」「Confidence(信頼度)」「Ease(容易性)」で要素の掛け算で施策の成功確率を評価します。Confidenceのの数値が大きいほど施策が期待通りの結果をもたらす可能性が高いことを示します。逆に、Confidenceが低い場合、施策はリリースされる可能性があるものの、期待する成果を得る確率は低くなります。

ICE法のConfidenceは、WSJF法が考慮しない施策の成功確率を補完します。この統合されたアプローチによって、プロダクト開発の意思決定はより情報に基づいたものとなり、リソースの割り当てが最適化されるため、プロダクトの成功率を高めることができます。

ICE法における信頼度の組み込みと全体の優先順位への影響

CoDで求めたスコア、開発に必要なコスト(Devopment Cost)、およびICEにおける信頼度(Confidence)を要素を用いて、各施策の優先順位を決定します。

CoDで求めたスコアの相対評価

まず、CoD法で算出した各施策のスコアを用いて、最大スコアを基準にして相対評価を行います。この相対評価では、最大スコアを10とし、他のスコアは最大スコアに対する割合で計算します。たとえば、最大スコアが720であれば、このスコアを持つ施策の相対評価は10となり、他の施策は

スコア/720×10 で計算されます。

式: スコア / 最大スコア × 10

施策スコア計算再評価後のスコア
モバイルアプリの導入66/720 × 100.08
プレミアムプランの新設7272/720 × 101
クラウド統合機能の開発720720/720 × 1010
セキュリティアップデートの実施210210/720 × 102.9
新市場拡大戦略280280/720 × 103.9

開発に必要なコスト(Development Cost)の相対評価

開発に必要なコストについても同様に相対評価を行いますが、ここでは最小のコストを最も高く評価します。最小のコストを持つ施策のスコアを10とし、他のコストは

最小コスト/各施策のコスト×10 で評価します。この方法により、労力が少ないプロジェクトほど高い評価を得ます。

施策所要時間(MD)計算再評価後のスコア
モバイルアプリの導入105/10 × 105
プレミアムプランの新設55/5 × 1010
クラウド統合機能の開発605/60 × 100.8
セキュリティアップデートの実施205/20 × 102.5
新市場拡大戦略305/30 × 101.7

最終スコアの算出

CoDで求めたスコアの相対評価と開発に必要なコスト(Development Cost)の相対評価、さらにConfidenceを掛け合わせます。これにより、各施策の最終的なスコアが算出されます。このスコアは、プロジェクトの全体的な効率、影響力、および成功の確実性を反映しています。

施策CoDで求めたスコアの相対評価開発に必要なコスト(Development Cost)の相対評価信頼度(Confidence)結果優先度
モバイルアプリの導入0.085525
プレミアムプランの新設1102202
クラウド統合機能の開発100.80.86.43
セキュリティアップデートの実施2.92.54291
新市場拡大戦略3.91.70.53.34

結果、「施策: セキュリティアップデートの実施」が最も高いスコアを持ち、優先すべき施策であることが明確となりました。

最終的な優先度は、事業判断によって行う

健全で客観的な優先度付けは行いました。しかし、これをそのまま利用するかどうかは結局は事業責任者によって判断します。

この優先度はあくまで目安に過ぎません。もっと優先させる施策や事業オーナーの意向が強い施策がこのスコアリングの結果に差し込まれる場面もあります。特に大企業や事業部以外に事業の影響を受ける横断施策や取引条件によって優先的に対応する施策も出てきます。

最終的な優先度の判断は、事業責任者によってなされるのが自然な動きです。

ここで、健全なスコアリングが正義だ変えてはならない!と思い込まず、現実の事業状況や企業の方針も考慮して施策を進めるのが現実的です。

なぜならあなたが事業判断の決定権がない場合、優先度の責任を取れない場合もあるためです。

まとめ

この記事では、プロダクト開発における優先順位付けの重要性と、それを実行するための具体的な方法としてCoD法、WSJF法、およびICE法の適用方法を詳しく説明しました。これらの手法を組み合わせることで、プロジェクトの効果的な優先順位付けが可能になり、限られたリソースを最も価値の高い施策に効率的に割り当てることができます。

  • CoD法では、プロジェクト遅延による機会損失を数値化し、プロジェクトの緊急度を評価しました。
  • WSJF法はプロジェクトのビジネス価値と労力の比率を計算し、効率的なタスクの優先順位付けを行います。
  • ICE法では、プロジェクトの影響力、コスト、および成功の確実性(信頼度)を総合的に考慮し、総合的な優先順位を定めました。

プロジェクト管理のプロセスを通じて、これらの手法の適用がどのように組織の戦略的目標達成に寄与するかを理解することが重要です。プロジェクトの成果を定期的に評価し、組織全体で学びと改善を継続することが、持続的な成長への鍵となります。

この記事がプロダクトマネジメントにおける優先順位付けの理解と実践に役立つ情報を提供し、読者が自身のプロジェクトにこれらの洞察を活かす一助となれば幸いです。今後も定期的なレビューとフィードバックを通じて、組織のプロジェクト管理方法を進化させていきましょう。